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よく読む・確かめる「寄り道」は、自分を大切にする時間──「面倒くさい」を楽しんでみる

2026年10月30日

く読む・確かめる「寄り道」は、自分を大切にする時間 「面倒くさい」を楽しんでみる

ある日の午後、スマホに「お知らせ」が一通届きました。開いてみると、細かい文字がびっしりと、画面の下のほうまで続いています。

眼鏡をかけなおして読みはじめたものの、聞きなれない言葉が次々に出てきます。だんだん、目がしょぼしょぼしてきました。

そして画面のいちばん下には、大きな「はい」のボタン。

「面倒くさいから、とりあえず先に進んでしまおうかしら」

指が、すうっと「はい」のボタンへ伸びていく──。

こんな経験、誰にでも一度や二度はあるのではないでしょうか。

細かい字を読むのは面倒で、つい読みとばしたくなりますよね。けれど「よく読む」「確かめる」というひと手間が、思いがけず私たちの時間を豊かにしてくれることもあるのです。

便利な世の中が奪ってしまった「豊かな時間」

早く済ませることばかりが、よいことのように見えるときがあります。そんなときは、むかしの暮らしを少し思い出してみてください。

たとえば、遠くに住む友人へ手紙を出すとき。相手の顔を思い浮かべながら便箋を選び、「お元気ですか」と一文字ずつ心を込めて書きます。

書き終えたら、ていねいに封をして、まっすぐ切手を貼り、少し離れた赤いポストまで歩いていく。ひとつの思いを届けるのに、ずいぶんと時間と手間がかかったものです。

台所の仕事もそうでした。前の晩から煮干しと昆布を水につけておき、朝になったら、かつお節をシュッシュッと音を立てて削る。

鍋のそばにじっと立って、台所にいい香りがふんわりと広がるのを待つ。あの静かで、あたたかい時間がありました。

もちろん、スマホで送るメッセージや、粉末のだしに助けられることも、たくさんあります。でも、なんだか「ものたりない」と感じることはありませんか。

手間を省けるようになった代わりに、私たちは「ゆとりの時間」を、どこかで少しずつ手放してきたのかもしれません。

あえて「ひと手間」かけることの本当の意味

手紙を書くことも、鍋でだしをとることも、いまの感覚では面倒くさいことかもしれません。でも、私たちはむかし、その「面倒くさい」を「ていねい」と呼んでいました。

ぬか漬けも、そのひとつです。さぼってしまえばダメになるから、毎日きちんとお世話をする。そのひと手間があるからこそ、おいしいお漬物ができあがります。

この面倒なひと手間を「ていねい」と読み替えてみると、まわりの景色が少し違って見えてきます。

たとえば、スマホでなにかするときのこと。「秘密の言葉を入れてください」「もう一度、同じ言葉を入力してください」と、細かな手順を求められることがあります。つい、ため息が出ますよね。

でも、これを「ていねいな暮らし」の一部だと考えてみませんか。お出かけの前に、戸締まりを確かめるのと同じです。

急いでボタンを押して済ませるのではなく、ゆっくりと手順を踏んでみる。そんな心のゆとりが、毎日をあたたかく、豊かなものにしてくれるはずです。

「よく読む」「確かめる」は、あなたを守る頑丈な盾

私たちは毎日を無事にすごすために、小さな「確かめる」を繰り返しています。

新しくもらった薬を飲むとき、袋に書かれている小さな文字を最後まで読む。荷物を送るとき、宛先や名前を声に出して確かめる。どれも日常のなかの「よく読む」「確かめる」行為です。

スマホの「お知らせ」も同じです。薬の説明書きを読むときのように、ゆっくりと文字を目で追ってみてください。

「これは、いったい誰からのお手紙かしら」

「差出人の名前、似ているけれど、一文字だけ違っていないかしら」

「どこへつながるのか、よくわからない文字がならんでいないかしら」

そんなふうに、虫眼鏡でのぞきこむように、ていねいに画面を確かめてみる。

そして「なんだかよくわからない言葉が書いてあるわ」と思ったら、そこで先へ進むのをやめればいいのです。

よく読んで、確かめるのは、自分を大切にすること。そう思ってスマホに向かえば、少し面倒な文字の列も、あなたを守る頑丈な盾になってくれますよ。

あえての遠回りが、確実な近道になる

よく読んで、確かめる。そのひと手間は、急いでいるときほど、遠回りに感じられるものです。ただ、早く済ませよう、効率よくやろうと選んだ道が、いつも近道とはかぎりません。

近所を散歩していて、いつもは通らない近道に入ってみたとします。ところが、道は行き止まり。

結局元の道に戻るまでに、ずいぶん歩き回ってしまった──。そんな「急がば回れ」の経験はありませんか。

一方で、いつもの道を、のんびり遠回りした日はどうでしょう。道端にきれいな花が咲いているのを見つけたり、ご近所さんとすてきな立ち話ができたり。

時間はかかっても心は満たされて、迷うことなく目的地に着くことができます。

暮らしのなかにも、「ボタンひとつで、すぐにできますよ」「このまま進めば、あっという間ですよ」という誘いの言葉があふれています。どれも魅力的に聞こえますよね。

でも、そこであえて遠回りを選び、少し面倒な手順を踏み、確かめながら進んでみる。

一見むだで要領の悪い、遠回りのように思えるかもしれません。けれど、その「遠回り」こそが、結果的にあなたを安全な場所へと運んでくれる、一番確実な近道なのです。

便利な世の中だからこそ、あえて「面倒くさい」ことを楽しんでみませんか。その寄り道の景色のなかに、きっと豊かさが隠れています。

次回は「うまい話」とのつきあい方のお話です。


この連載について

この記事は、書籍『「余計なひと手間」が、あなたの日々を守る──心おだやかに暮らす5つのコツ』(Kindle/ペーパーバック)の内容をもとにお届けしています。

筆者:安藤正明(社会福祉士)。介護・生活支援の現場に12年。仙台市でシニア向けデジタルサポートサロン「でじすけ」を運営しています。