「社会に取り残される高齢者を減らしたい」安心感を届けるサービスにこだわる社長の想いとは【社長インタビュー】
2025年5月12日

過疎化や高齢化の進む地方では、公的サービスだけでは支援が行き届かず孤立してしまう方が少なくありません。
岩手県奥州市を中心に活動するSOCIARAS(ソーシャラス)は「誰にも頼れず、ひとりで悩みを抱える人をなくしたい」という思いから設立されました。お客様に寄り添う柔軟なサービスとリーズナブルな料金が評判で、少しずつ利用者数を伸ばしています。
「どんな小さな不安や困りごとでも気軽に話せて、自然と笑顔になれる。そんな安心感を届けることが私たちの存在理由です」と語るのは、ソーシャラスの安藤社長。今回は安藤社長に、高齢者支援への想いや今後のサービス展開などについてインタビューしました。
地元奥州市で地域に根差した支援を多方面から展開
ー現在展開している事業内容について教えてください
株式会社SOCIARASでは、高齢者が地域で安心して自分らしく暮らし続けるために、3つの柱となる事業を展開しています。
1つ目は【生活支援サービス】です。
買い物や通院の付き添い、日常のちょっとした困りごとへの対応など、公的な介護保険サービスではカバーしきれない部分をきめ細やかにサポートしています。生活支援サービスをご利用いただいたお客様のリピート率は、限りなく100%に近いです。信頼関係が深まる中で、少しづつご依頼の幅が広がっている実感もあります。
2つ目は【見守りサービス】です。
定期的な訪問や電話を通じて、孤立や体調の変化を早期にキャッチできるように支援します。必要に応じてご家族や地域の関係機関とも連携して、安心していただけるように支援しています。
3つ目は【シニア向けデジタル支援サービス】です。
スマートフォンやタブレットの操作方法やアプリの使用方法などを、サロン形式または個別で楽しく学べる環境を提供しています。設定に関してはこちらで操作することもありますが、使用方法に関しては「支援なしで1人でできるようになる」ことを大切にしています。
ーお客様のご依頼で多い内容を教えてください
ご依頼で特に多いのが通院介助ですね。一人での通院に不安を感じる方や、遠方や仕事などで付き添いが難しいご家族から多くのご相談をいただいています。
当社のサービスは病院への送迎だけではなく、受付や診察の同行、薬の受け取りまで幅広くサポートしているのが強みです。ご家族での連携も、電話やLINE、メールを活用してタイムリーに行っています。ただの付き添いではなく、安心を届ける存在でありたいですね。
ーどのような経緯で利用を開始するお客様が多いですか
ご利用のきっかけとして多いのは、ケアマネージャーさんなどからの紹介です。最近は遠方に住むご家族から、ホームページを通じての問い合わせも増えています。特に介護保険では対応が難しい日常の困りごとに対して「こういうサービスがあるよ」と勧めていただくケースが多いです。
例外としてデジタル支援サービスは、ご本人からの問い合わせが9割を占めます。利用される方は70代がもっとも多いですね。「スマホをもっと便利に使いこなしたい」というご希望をお持ちの方が多い印象です。
-奥州市を中心に事業を展開している理由を教えてください
私自身が奥州市出身で、地域の実情をよく知っています。まず地元で新しい仕組みやサービスを実践したいと考え、奥州市での事業スタートを決意しました。
「してあげたいけれど、できない」歯がゆさから生まれた生活支援サービス

ー福祉の世界に入ったきっかけを教えてください
もともと東京でサラリーマンをしていたんですが、家族の都合で岩手に戻ることになったんですよ。そこでご縁があり、住宅型老人ホームの施設長として6年間勤務したのがきっかけです。
私は中途から介護の世界に入ったので、びっくりすることの連続でしたね。「してあげたいのに、公的枠組みの関係でできない」ということが多く、何度も歯がゆい思いをしました。もちろん、介護保険は公的なお金を利用するので、ルールがあるのは仕方のないこととは思うのですが。
ー具体的にどのような場面で驚きや歯がゆさを感じたのですか?
基本的には日常茶飯事でしたね。介護保険はあくまでも計画に沿って実施されるからです。
たとえば生活援助でトイレ掃除をしていたら電球が切れてしまって、ご利用者様から交換もお願いされることってあるじゃないですか。内緒で変えてあげているヘルパーさんもいると思うんですけど、本来はダメなんですよね。
食事や洗濯も同じように、介護保険内のサービスではご本人の分しか対応できないんですよ。老々介護だと、配偶者の方も同じように援助を必要としている場合も多々あります。
多くの高齢者と接する中で、困っているのに介護保険内のサービスでは援助ができない現実をなんとかしたいと思ったんです。そこで、介護保険の隙間を埋めるようなサービスを提供したくて、今の事業をスタートしました。
人と深く関わる仕事の意義と難しさを感じる日々

ー仕事において大切にしていることを教えてください
「ないものねだりより、あるもの探し」という考え方です。今ある資源や環境、人とのつながりに目を向け、どのように活かせるかを常に意識しています。ご利用者様の生活の中にも、できることや可能性は必ずあると信じているんです。
できることや可能性を一緒に見つけていくことが、信頼や安心につながる支援の第一歩だと考えています。
ー事業を始めて嬉しかったエピソードを教えてください
ある日、いつものように奥様の通院送迎を担当していた際に、ご主人の様子が明らかにいつもと違うことに気づいたんです。心配になったのでご家族と相談し、ご主人も一緒に病院へお連れしました。検査の結果肺炎が判明し、そのまま緊急入院となりました。早期対応ができ、大事に至らなかったことが本当に嬉しく、改めてこの仕事の意義を実感しました。
ー逆に大変だった・苦労したエピソードはありますか?
スケジュールや専門性の関係で、対応できないケースがあることです。できる限りほかの信頼できる事業者様をご紹介していますが、調整や連携には時間と労力がかかります。
ご利用者様一人ひとりの生活状況や好き嫌いなどを把握し、信頼関係を築くことにも多くの時間と心配りが必要です。人と深く関わる仕事だからこそ、難しさを日々感じています。
従業員や家族も大切にする姿勢が信頼関係につながる
ーヘルパーとの関わりで大切にしていることを教えてください
ヘルパーはご利用者様の生活に深く関わるので、信頼関係を築ける人柄がなによりも大切だと考えています。マニュアル通りではなく、目の前の人に合わせた対応ができる柔軟さを重視して教育しています。成長できる環境づくりのために、現場での丁寧なフォローや定期的な振り返りも欠かしません。
ヘルパーとのコミュニケーションで意識しているのは「一緒にご飯を食べること」です。食事を共にすることでお互いの考え方や価値観が見えてきて、信頼関係が深まっていくと感じています。
ちょっとした雑談や笑い合える時間が、チームとしての一体感や安心感につながっていると思いますね。
ー休日はどのように過ごされていますか?
今は育児に時間をかけていて、休日は一緒に過ごすことがほとんどです。もう少し子どもが大きくなったら、家族で登山など外でのアクティブな活動も増やしたいですね。
最近、子どもがオートバイに興味を持ち始めているんです。毎日のようにその話ばかりするので、またバイクに乗りたい気持ちがふつふつと湧いてきています(笑)そのあたりは妻と相談ですが、楽しみの一つとして大切にしたいと思っています。
-大切にしている言葉や考え方を教えてください
一人の人間として大切にしている言葉は、米沢藩主・上杉鷹山の「為せば成る、為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり」です。何事も「やってみなければ始まらない」という信念は、私の行動の原点になっています。
経営者としては2つあります。一つ目は「三方良し」です。単に利益を追うのではなく、ご利用者様の満足と、地域にとっての価値をどう高めるかを常に考えています。
2つ目は「道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言である」といった「二宮尊徳の教え」ですね。倫理と思いやりを忘れず、バランスの取れた経営を心がけています。
「お客様が本当に求めているのに、他社が手を出しづらいこと」に取り組みたい

ー今後会社として力を入れたいことを教えてください
「お客様が本当に求めているのに、他社が手を出しづらいこと」に取り組むことです。「こんなサービスが欲しかった」と思っていただける取り組みを、これからも広げていきたいですね。
私はデジタル庁のデジタル推進委員にも登録しているので、シニア向けのデジタル支援にも力を入れています。スマートフォンの操作や、オンラインサービスの利用などに不安を感じている高齢者は多くいます。しかし、ニーズが高まっているのにも関わらず、支援体制はまだ十分に整っていません。
スマートフォンの知識はお客様によってバラバラなので、授業のような方法での支援は難しいんです。ゆとりをもって対応しようと思うと、1日に対応できる人数はどうしても限られます。
それでも、利益を追求するのではなく、一人ひとりに寄り添う姿勢を重視していますね。
現在シニア向けデジタル支援サービスは宮城県仙台市で展開していますが、今後は奥州市にも広げていけたらと思っています。
ー社長個人の目標を教えてください
「誰かの困りごとを、一番に相談される存在になること」です。肩書きや立場に関係なく「あの人なら、なんとかしてくれるかもしれない」と思ってもらえるような存在を目指しています。
将来的な目標は、人と人とのつながりが地域の中で自然に生まれ、困ったときに支え合える社会をつくることです。まず自分自身が「寄り添う姿勢」を持ち続け、常に学び成長していきたいと考えています。事業を通じて、そんな社会の土台を築いていくことが、私個人としての大きな目標です。
ー聞き手:鈴木ゆゆ(医療・福祉ライター、看護師)